特別エッセイ
鈴木会長、藤井副会長が、出版関係で親交を深めた漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さんと、北海道の洞窟壁画を探るエネルギー旅に出かけました。独特の切り口の旅行記をご寄稿いただきました。お楽しみください。
世界には、ラスコーやアルタミラなど有名な洞窟壁画が存在しています。でもそこまで遠くに行かなくても、国内で見られる洞窟壁画が北海道にあるらしい、と伺いました。今回ご縁があって取材に伺わせていただくことになりました。
◎手宮洞窟の壁画
羽田を出発し、新千歳空港から小樽方面に向かいました。国内に2か所しかない貴重な洞窟壁画の一つ「手宮洞窟」(国指定史跡)は、小樽市手宮という地区に存在します。
はじめて訪れた小樽の街は、運河沿いにおしゃれな店が点在していました。でも、まずは目的地の洞窟へ。暗くて狭い洞窟内を歩いて進むのかと思って覚悟していたら、「手宮洞窟保存館」という建物が建っていました。洞窟部分を覆うように建物があって、快適な室内から刻画を鑑賞できます。
ちなみに入場料は100円でした。この建物の周辺には、なぜかセリア、キャンドゥ、ダイソーなど100円ショップが大充実していましたが、一番有益な100円の使い道かもしれません。
小樽市総合博物館の館長で学芸員の石川直章さんが、洞窟内を案内してくださいました。ラスコーやアルタミラは何万年も前に描かれていますが、北海道は意外に新しくて、手宮洞窟やフゴッペ洞窟の刻画は5世紀前後に描かれたそうです。
「約1600年前の続縄文時代に描かれたと言われています」と、石川さん。
「えっ! 続縄文ってなんですか? 弥生時代とかではないんですか?」
「北海道の歴史は本州の歴史と違います。稲作を選ばなかった地域なので、本州の弥生文化もまだ入ってきていません。続縄文時代のあとは、擦文(さつもん)時代と続きます」
とのことで、本州の歴史中心に見ていましたが、北海道や沖縄は独自の文化が築かれていたそうです。擦文文化も土器を使い、竪穴式住居に暮らしていたようで、平和な縄文時代の余韻が長く続いていたのは羨ましいです。
この手宮洞窟の壁画が発見されたのは江戸時代の終わり頃。石材を切り出そうとした時に壁画の一部が見つかって、昭和25年にまた新たな壁画が発見。その頃は「古代文字」という表現をしていて、踏切には今も「古代文字踏切」と名付けられている場所があります。
「今、古代文字って言い方はしてないんですよ。絵の重なり具合を調べていくと、非常に規則性がないんですね。具象性が高い絵が隙間に描き加えられていて、これは文字ではなかろう、ということになっています」
絵は、羽が生えている人や角がある人、手に杖のようなものを持った人などが描かれていて、当時そういう姿の人が実際にいたのか、もしくは宇宙人を描いたのか想像が広がりますが、実際は儀式でのシャーマンを描いたという説が。宮古島のパーントゥや悪石島のボゼなど、南西諸島の祭では来訪神の扮装をすることがありますが、そのような特別な祭祀の様子を描いたのかもしれません。心のどこかではまだ宇宙人だと信じたいですが……。
また、刻画を見た第一印象で、それぞれの部族の長に選ばれた人が、自分を表すシンボル的な絵をサイン代わりに描いたのかもしれない、とも思いました。当時は朱色で描かれていた説があり、魔除け的な意味もあったのでしょうか。アイヌ民族は洞窟にはあまり近付かなかったそうで、おそらく海洋民族が描いたのでは、とのこと。絵に描かれた人のうち何人かは足が魚っぽいシルエットなのが気になりました。豊漁祈願で描いたのか、もしくはマリ共和国のドゴン族に伝わるノンモのような、下半身が魚の宇宙から来た存在を表しているのでしょうか……。薄暗い洞窟で刻画を眺めていると、古代の精霊とチャネリングできそうな気になってきます。アムール川にも似ている陰刻画が発見されていて、当時文化的交流があったのかもしれないそうです。
こんなに歴史的に貴重な場所なのに、入場料は100円という安さで、お土産もハガキが少しある程度だそうで、商売っ気がありません。石川さんによると、昭和のはじめはお菓子やタオル、浴衣の生地など、洞窟壁画をモチーフにしたお土産がいろいろ出たそうですが、今はほとんど残っていないそうです。
人間の文化は流行りすたりがありますが、洞窟壁画は保存状態が良ければ何万年も残る可能性があります。凝灰岩に石斧を使って刻んだそうで、現代のようにスマホやPCでかんたんに入力するのと比べ物にならないエネルギーと気合いが感じられます。
◎フゴッペ洞窟へ
続いて少し西に移動し、もう一カ所の洞窟壁画スポット、北海道余市郡余市町にある「フゴッペ洞窟」(国指定史跡)へ。ボランティア説明員、牧野さんが地元のエピソードを交えてわかりやすく解説してくださいました。
「フゴッペ洞窟は、昭和25年に地元の中学生が発見しました。ちなみにその後、発掘作業に参加した人の一人が、横田めぐみさんのお父さんです」
何年か前に亡くなられた優しそうな老紳士を思い出しました。こちらの施設も洞窟を保存しているきれいな建物で、ガラスごしに眺めることができます。洞窟の前の部屋には、縄文土器や、占いに使われた骨、石斧、刀などが展示。
「フゴッペ」とは不思議に名前ですが、アイヌ語の「波声高き所」「番をするところ」「トカゲ」などが由来だと考えられています。「トカゲ」とは、もしかして古代にレプティリアンが訪れていたのかも? と妄想が広がります。ちなみに「フゴッペ洞窟」や「手宮洞窟」の刻画は、コロボックルが描いたという説もあるそうです。素朴なタッチは小柄な人たちが一生懸命岩に刻んだのだと思うと、感慨深いです。
洞窟壁画は見やすいように、一部模型が展示されていました。また、シャーマンなのか羽が生えた人や、舟、魚、四つ足の動物など、800点以上の刻画が描かれています。手宮洞窟よりも壮大なスケールです。
「このシャーマンは、赤ちゃんのガラガラのようなものを持ってますよ。こうやって神になりきる。岩に絵を描くのは、見えない存在に自分の考えを託すという意味があるんです」と、牧野さん。
「片手に矢を持って、片手に獲物をぶら下げている姿も描かれています。横には犬がいますね。犬を使って追い猟をしていたと考えられます」
当時の人々の人生を描いた一大絵巻なのでしょうか。エジプトのピラミッドの壁画にも似ている要素があります。この洞窟も死者を弔う場所だったりするのでしょうか。
「この西に向かっている舟は、亡くなった人を運んでいます。古代エジプトでは人が死ぬと、太陽の舟に乗せて西に向かう、という言い伝えがあります。夜になったら西の海に沈めて、朝になったら東から蘇るんです」
と牧野さんがおっしゃるように、東側にも舟が描かれていました。他にも、トランス状態で踊っている人や、儀式に使う葉っぱを手渡すシャーマンなど神秘的なモチーフが描かれていました。手をつないでいる男性の刻画にはいにしえのBL感が漂います。
模型を観賞した後は、いよいよ洞窟内へ。「霊感が強い人が、ここは悪寒がする、って言ったり、中に入れないとすぐ出てきた人がいたり、赤ちゃんが泣き出したこともありますよ」と、脅かして盛り上げてくださる牧野さん。たしかに薄暗いので、ちょっと怖い雰囲気はありますが、描かれているのがシャーマンなど神がかったモチーフなので、厳かで守られている感覚もあります。
エネルギーがわかる鈴木会長や藤井さんは、奥の方からエネルギーを感じると話していました。とくに方位磁石がクルクルと回るポイントが、強いパワーを発しているそうです。藤井さんは、奥の方の細い階段を上がったあたりから何か感じるとのことでした。壁の上の方には、人間の男と女を表す、丸と棒が描かれています。何かの人数を示しているのか、生贄とかでないと良いのですが……。地面には火を焚いた場所があり、どんな儀式をしていたのか謎が深まります。
右上のあぐらをかいているようなシルエットは、牧野さんいわく「瞑想をしている人」を表しているそうです。続縄文時代に瞑想の文化があったとは……。縄文人の意識の高さを実感しました。さらに、世界中の文化と通じる精神性があるらしいです。
「ネイティブアメリカンの酋長がここに見にきて、これは我々の祖先が描いたものだ、と言ったそうです。また、こちらの壁には古代エジプトのスフィンクスが王冠をかぶったような絵が見えます」
古代は意外と海洋技術が発達していて、世界各地と交流があったのかもしれません。
「あと、ここを見てください。両手両足で踏ん張っている人に見えますよね。それからここにも笑っているみたいな顔が浮き上がって見える」
と、独自に様々なイメージを発見している牧野さん。言われてみると、他にも顔のように見える壁面の箇所が……。「ここに蛇が見える! ほら、これが歯。姿を現してくださってありがとうございます!」と興奮気味に叫んでいる女性もいました。トカゲの宇宙人ではなく、蛇がいたようです。それぞれの内面と呼応するように、何かが浮き上がってくるのかもしれません。
「フゴッペ洞窟 」の施設には、壁画の中でも目立っていた、有翼人モチーフのTシャツが売られていました。あとはキーホルダーが売られているくらいで、こちらも商売っ気がありませんでした。それがさらに洞窟壁画の神秘性と、消費されない普遍性を高めているようです。
小樽周辺には80近くもストーンサークルがあるそうで、そのうちの余市町の小高い丘にある西崎山環状列石にも立ち寄りました。縄文時代後期の環状列石で、柵の内側に手を入れると温かい感覚がありました。縄文人が後世の人間が充電できるように作ってくれたスポットなのかもしれません。一説には縄文時代後期の墓とも言われています。大昔の日本人の先祖のお墓にお参りしたら、何か恩恵ありそうです。
◎天狗山とリスと
「フゴッペ洞窟に行くと悪夢を見る」という都市伝説も聞きましたが、特に何事もなく、翌日は近くの天狗山へ。
天狗山はロープウェイで山頂に行けて、神社もあるというパワースポットです。シマリス公園でリスにも会えます。山頂には「猿田彦大神」が祀られた小樽天狗山神社と、天狗山赤沼龍神、石仏と弘法大師像が並んでいて、それぞれ神聖なエネルギーが漂っていました。
藤井さんによると、小樽天狗山神社は優しいエネルギーで、赤沼龍神は強めのエネルギーだそうです。眼下には小樽の街と海が広がっている絶景スポット。海や街からのエネルギーが山頂にのぼってきて、山頂からのエネルギーが海や街に流れるという、良い循環ができているそうです。真のサスティナブルな循環型エネルギーを感じました。龍神が海から山へと飛び交う姿が浮かびます。山頂には岩場もあり、修験道の残留エネルギーも感じられるそうです。「岩に天狗が座っているのを感じます」と、鈴木会長。
パワーうずまく山から、街並を見下ろすのはまさに神の視点。さらに、リス園に行ったら、怯え気味に走り回って餌をためこむリスが、かわいいけれど余裕がなく、マインドに翻弄されているように見えました。
それは神が人間に対して抱く思いと同じなのかもしれません。神から見た人間は、人間から見た小動物。リスの姿を見て、心配にとらわれがちだったことを反省しました。
洞窟やストーンサークル、山などのスポットを訪れて、縄文時代から続く自然への畏敬の念が高まりました。
刻画のシャーマンのような本格的な儀式はできませんが、神と人との理想の関係を体感できたので、良いエネルギーの循環に入っていけそうです。